三鷹駅前コミュニティ・センター利用問題に関する意見

笹沼弘志(静岡大学教授)


 野宿者及び支援者による野宿者自助・支援グループである「夜まわり三鷹」が三鷹駅前コミュニティ・センターの料理講習室等を使用することを、同コミュニティ・センター指定管理者である三鷹駅周辺住民協議会及び三鷹市が拒否していると聴いております。
 これは、地方自治法244条2項及び3項、日本国憲法14条等に反する不当な差別であり、重大な人権侵害と言わざるを得ません。三鷹駅周辺住民協議会及び三鷹市は、直ちに「夜回り三鷹」の料理講習室利用を認めるべきです。


【理由】

1. 日本国憲法14条は、すべて国民は、法の下に平等であって、人種、心情、性別、社会的身分等により、とりわけ公の機関によって差別されないことを定めている。
 そして、地方自治法244条2項は、「正当な理由がない限り、住民が公の施設を利用することを拒んではならない。」とし、また、同条3項は、「住民が公の施設を利用することについて、不当な差別的取扱いをしてはならない。」と定めている。
 社会経済状況の悪化により、職を失い、生活に困窮し住居を確保できず、野宿生活を強いられているホームレスの人々に対して、ホームレス状態にあることを理由に、地方公共団体及び公共施設の指定管理者が差別的取扱いを行うことは、明らかに憲法14条及び地方自治法244条2項及び3項に反する。 
 果たして、今回の使用拒否が憲法14条及び地方自治法244条が禁止した差別であるか否か検討する。

2. 利用規則を破った事実について、住民協議会及び三鷹市は何ら説得的な主張・立証していない。また、使用させない理由について十分説得的な根拠を上げていない。
 住民協議会は、イ、野宿者が持ち込んだ寝袋が汚い、ロ、ランチルームで法律相談会を開いた、ハ、住民基本台帳に登録していない人は三鷹市民ではない、などの理由を挙げているようである。
 しかし、イ、荷物の置き場がない野宿者はどこに行くにも荷物を持って移動せざるを得ない、これは安定した居住の場所を確保すべき義務を三鷹市等が履行していないことの結果である。ロ、については、利用規則のどこにもランチルームで食事をしながら相談会などを行ってはならないとの禁止事項は規定されていない。食事をしながら談話するなどの行為を行うのは通常のことであり、食事をするとともに相談を行うことも利用目的を逸脱したものとはいえない。
 ハ、住民協議会が定めた三鷹駅コミュニティ・センターの「利用のきまり」によれば、同センターを1.利用できる人は、「原則として三鷹市民と三鷹市内に在勤、在学している人、その他住民協議会が適当と認めた人」であり、ただし「団体で利用する場合は、会員の過半数以上が三鷹市在住者(在勤、在学も含む)であること。その他住民協議会が適当と認めた人」とされている。従って、住民基本台帳法上、三鷹市内に住民登録されている者以外であっても、市内に在住(在勤、在学)していれば、利用を認められることになる。たとえ安定した住居を構えておらず、野宿状態であったとしても三鷹市内において起臥寝食している者は、三鷹市在住者であり、当然ながら利用を認められるべきものである。
 また、野宿者が現に、住民基本台帳法上住民登録されていないとしても、むしろこれは野宿者の住民登録を怠っている行政の不作為の結果に過ぎない。本年1月27日に大阪地裁は、公園内でテントを張り野宿生活しているホームレスの人について、その生活の本拠は公園のテントであり、そこを住所として認めるべきであるとの判決を下した。これは、本人の生活の本拠を住所とする住民基本台帳法4条及び地方自治法10条1項の定めから言って当然のことである。従って、三鷹市内で野宿している人々の住所は三鷹市内にあり、本来住民基本台帳法上、三鷹市において住民登録されるべきものである。よって、住民協議会の主張はこの点においても理由がない。

3. 三鷹市は、ニ、夜まわり三鷹と住民協議会相互の理解が足りないこと、ホ、夜まわり三鷹に使用を認めると住民協議会との信頼関係が損なわれること等を使用拒否の理由としてあげているようである。しかし、それが使用拒否の正当な理由となるのか。
 ニ、相互理解がないという点について、夜まわり三鷹、住民協議会いずれに責任があるのか。夜まわり三鷹は、住民協議会及び三鷹市との話合いをもち、自分たちの活動の目的、内容等について十分説明し、コミュニティ・センター使用を認めない理由は何か説明を求めている。それに対して、住民協議会は、使用を認めない理由を十分説明しようとしていない。
 ホ、夜まわり三鷹に料理講習室使用を認めると、市と住民協議会との信頼関係が損なわれると言う。しかし、それは住民協議会がホームレスの人々に対する偏見を抱いているがゆえに、夜まわり三鷹に対して施設使用を認めないことに原因がある。差別による使用拒否は上述のように憲法14条、地方自治法244条に違反する。
 そもそも、国民には、ホームレス自立支援法7条により「ホームレスに関する問題について理解を深めるとともに、地域社会において、国及び地方公共団体が実施する施策に協力すること等により、ホームレスの自立の支援等に努める」義務がある。にもかかわらず、夜まわり三鷹の説明に十分耳を傾け、ホームレス支援の意義を理解しようとしない住民協議会の態度は、ホームレス自立支援法7条に違反するものである。
 このように、住民がホームレスの人々に対して偏見をもち、ホームレスの人々及びホームレスの支援に関わる団体の活動に理解を示さない場合には、三鷹市など地方公共団体は「国民への啓発活動等によるホームレスの人権の擁護」を行うことによって「ホームレスに関する問題の解決を図る」義務を負うものである(3条1項3号)。
 従って、三鷹市は、夜まわり三鷹に施設使用を認めると住民協議会との信頼関係がそこなわれるとの理由は、地方自治法244条2項が定める施設利用拒否のための「正当な理由」とはいえない。

4.かつて、東京都では、同性愛者の団体が府中青年の家を利用する権利を不当に侵害した歴史がある。
 同性愛者の団体「動くゲイとレズビアンの会」が同青年の家を宿泊利用したところ、他の利用者から「ホモ」「オカマ」など差別的発言を受け、入浴中のぞかれたりなどと言った嫌がらせを受けたことについて、同青年の家所長に対して改善を求めたところ、逆にその後所長から同施設の使用申込書の不受理行為を受け、さらに東京都教育委員会から使用不承認処分を受けるに至った。
 そこで、「動くゲイとレズビアンの会」はやむなく東京都に対して損害賠償を求めて提訴するに至った。
 東京地裁、東京高裁とも、本来東京都教育委員会は、同性愛者に対して差別発言をした他の利用者の嫌がらせ行為こそ否定的評価を与えられるべきであったにもかかわらず、逆に「動くゲイとレズビアンの会」の施設使用を認めなかったという本末転倒な行為に違法性を認め、都に対して損害賠償を命じた。
 しかし、このような教訓を顧みず、今回再び東京都において、差別偏見に基づく施設利用拒否が繰り返されたことは極めて残念である。争訟等により、その違法を是正される前に、三鷹市及び指定管理者たる三鷹駅周辺住民協議会が自らの行為を深く反省し、直ちに夜まわり三鷹の料理講習室使用を認めるよう忠告したい。
以上