住民票がない野宿者は、選挙できない

 住民票がない人は選挙できない――ご存じでしょうか。
 
公職選挙法
(選挙人名簿の記載事項等)
第20条 選挙人名簿には、選挙人の氏名、住所、性別及び生年月日等の記載(略)をしなければならない。(以下、略)

 選挙権があっても住民票が定まっていない人は、選挙人名簿に住所を記載できないために、選挙できないのです。
 かつて、選挙権は、金持ち・貴族・男に限られていました。身分・性別・人種・障碍など本人にはどうすることもできない理由で選挙の機会から排除されていた人々が、選挙権の獲得・行使を勝ち取ってきた歴史でした。日本での戦前の婦人参政権運動、1960年代のアメリカ合州国での黒人による公民権運動の高まりなどが挙げられます。
 選挙は政治的な活動の一形態にすぎないし、一票を投じれば世界が変わるわけではありません。しかし、議会制民主主義を標榜する国では、選挙権は人として最も基本的な権利のはず。それを前提にシステムを構築しているのに、住民票を設置していない、たったこれだけの理由で一方的に権利を奪いシステムから排除することには疑問を持たざるを得ません。

 野宿の仲間は、住民票がないためにさまざまな権利をはく奪されています。それに困っていた山内勇志さんが、2004年3月、生活していた扇町公園に住民票を置こうと大阪市北区に届け出たのですが認められませんでした。そこで、山内さんは、大阪市北区に対し、住民票設置を認めるように裁判を起こしました。一審では山内さんの訴えが認められました。しかし、2008年10月3日、最高裁は山内さんの訴えを退けました。「公園内に不法に設置された場所は、社会通念上、生活の本拠とは言えない」ため、住民票設置を認めないとの判決でした。
 この判決、いろいろ納得できません。山内さんのテントには郵便物も届くし実際に暮らしているのですから、「生活の根拠とはいえない」ともいえません。何よりも、住民票がないことにより行政サービスを受ける権利を奪われている事の方が、社会通念上、許されないのではないでしょうか。まして選挙権が奪われていることは、社会通念というより人権上、許されないことです。山内さんが住民票設置を求めた理由は権利が奪われていることに困ったからで、それを解決しないまま住民票の不受理だけを認めた最高判決には疑問を感じます。
 住民票設置を認めない、住民票がなければ選挙権すら行使できない、選挙を通じて自分たちの意思を立法に反映させることができない、立法によって解決できないので住民票設置問題は放置される。この堂々巡り…。

 ホームレス法的支援者交流会が、野宿者の選挙権行使についての調査を呼びかけています。夜まわり三鷹でも、調査に協力する予定です。
 質問項目は、住民票があるか否か、選挙権を行使できるか否か、選挙に行きたいか否か、など。

 ネットカフェにいる方でも、選挙権を行使できない方がいるかも。このブログを読んで調査に協力したいという方がいらしたら、ご連絡ください。

路上生活者