生活保護費の引き下げ中止と生活保護法改悪法案廃止を求める声明

                             2013年6月4日


生活保護費の引き下げ中止と生活保護法改悪法案廃止を求める声明

               東京市部区部「ホームレス」支援活動懇談会         
                       さんきゅうハウス
                      三多摩自由者労組
                      三多摩野宿者人権ネットワーク
                      日雇全協・山谷争議団
                      渋谷・野宿者の生存と生活をかちとる自由連合
                      府中緊急派遣村
                      夜まわり三鷹


 私たちは、東京都の市部及び区部で野宿者を支援している団体の集まりである。

 私たちは、今年8月からの生活保護費の引き下げをやめるよう、求める。
また、5月31日に衆議院を通過した生活保護法改悪案を、直ちに廃案とするよう求める。


 野宿の仲間は、長年にわたり、生活保護からも排除されてきた。生活保護を申請にいっても、65歳以下だから稼働能力がある、住む場所がないから保護でき ない、などと申請すら受理してもらえなかった。住む場所がある人であれば65歳以下でも生活保護を支給していたにもかかわらず。住む場所がないから保護で きない根拠として挙げられたのは、生活保護法第30条「生活扶助は、被保護者の居宅において行うものとする。ただし、これによることができないとき、これ によつては保護の目的を達しがたいとき、又は被保護者が希望したときは、被保護者を救護施設、更生施設若しくはその他の適当な施設に入所させ、若しくはこ れらの施設に入所を委託し、又は私人の家庭に養護を委託して行うことができる」であった。現在では、生活保護を受給したら施設ではなくアパートで暮らすの が通常の暮らしである、と正しく解釈されるようになってはきている。しかし、これは、野宿していた佐藤邦彦さんがアパートでの生活保護を認められなかった ことは違法であるとして大阪市を相手取った民事訴訟で2003年10月23日に高裁で勝訴してから厚生労働省も野宿者への敷金・礼金の支出を公に認めるこ ととなったからである。私たちは、憲法でも保障されている健康で文化的な暮らしの中で幸福を追求することよりも、経済優先で生活保護制度を実施しようとす る厚生労働省をはじめとする生活保護実施機関に抗議する。このような体質をあからさまにした、今回の生活保護費削減と改悪案を直ちに撤回するよう求める。
 貧困は、個人のせいではない。貧乏な親と金持ちの親を持って生まれた子どもではスタートラインがまったく異なる。その差を埋めるのが、社会保障や労働政 策であろう。仕事に就けないのは、個人のせいではない。仕事を用意しない行政の怠慢である。野宿者は、働いてきたが社会保障の蚊帳の外におかれたことが理 由で野宿に至った人も多く、日雇労働者派遣労働者社会保障政策を怒ったのは、国の責任である。そうした国の責任を、貧困に陥った人々の責任にしてひた すら努力だけを求めるのはやめよ。


1、生活保護費削減について
 生活保護費は、世帯の消費支出と連動させる水準均衡方式により算定されている。水準均衡方式は、朝日訴訟などを経て、必要不可欠なものをそろえるだけで は日本国内での文化的な暮らしはできないため、一般世帯の消費支出と連動して算定する方法である。消費支出には物価も反映されており、物価と連動させると する今回の生活保護費の引き下げは朝日訴訟を経て改善した水準均衡方式を否定するものに他ならない。
 生活保護費は、最低賃金・非課税基準・社会保障基準などとも連動している。
野宿生活から生活保護を経て就労により生活保護を廃止した人もいるが、学歴差別や高年齢なこともあり、仕事にありつけても総じて低収入である。貯金はでき ず健康であればなんとか暮らしていける程度の暮らしの者が多い。そうした人にとって、地方税介護保険料で免除される額は生活費の中で大きな割合になる。 もしも生活保護費の引き下げにより免除などの基準額が下がれば、生活への打撃は大きい。
 また、最低賃金以下の賃金で働かせる零細企業もある。野宿生活していた人がありつけた仕事でも、驚くべきことに最低賃金以下の時給800円もある。就職 活動をしても採用されない中でそのような企業で働かざるを得ず、生活費を稼ぐために1日12時間もきつい肉体労働をしていた。それでも、1日に1万円ほど しかならない。しかも、時給700円の人もいたという。この件では労働基準監督署最低賃金を守るよう訴えてもなかなか改善されなかった。こうした実情を 鑑みれば、最低基準賃金が果たす役割の大きさがわかる。もしも最低賃金が下がれば、生活保護から就労自立する道も遠のくであろうし、派遣労働者など不安定 雇用の人々へも大きく影響するだろう。
 生活保護受給者だけでなく、労働者とりわけ下層労働者に悪影響を及ぼす生活保護費削減に反対する。


2、生活保護法改悪案について
 生活保護法改悪案は、第24条で、生活保護の申請時に、氏名・居所のみならず資産・収入がわかる書類のほか、保護の種類・程度・方法がわかるような厚生労働省が定めた書類を提出しなければならない旨が書かれている。
申請時にこれらの書類提出を義務づけることについては「特別の事情があるときは、この限りではない」との修正案が通った。一方で、野宿者は、現在でも、ア パートで暮らしたいと言っても無料低額宿泊所に入所しなければ生活保護申請を受理してもらえない、「無料低額施設に空き室がないので明日申請に来るよう に」と言われる、などと本来であれば理由にならない理由で受理を拒否されることが多い。特別な事情を判断するのが水際作戦をしている福祉事務所であること を鑑みれば、受理を拒否するために、所持品すら持っていない野宿者であっても「特別の事情にはあたらない」として申請時に書類提出を求めることも予想され る。
私たちが出会ってきた野宿者は、育ててもらえる人に恵まれなかったり貧困だったりして中学しか卒業できなかった人や、知的・精神障害がある人も多く、申請 書類を自分で書くことが困難な場合もある。こうした理由から野宿せざるを得ないほど貧困に追いつめられた人々でも健康で文化的な生活ができるよう、これま で通り書類提出を原則とせず、口頭での申請も認めるべきである。
 また、同条には扶養者への扶養義務を強化するため、扶養を怠っていると判断されると、厚生労働省令に定めた文書を通知する旨が書かれている。適当でない 場合は通知しないとの規程もあるが、例外規程にすぎず、通常は通知されることとなっている。よくいわれているように、生活保護を申請する人は家族や地域と のつながりが希薄になり助けを求めることができなくなっている。やむにやまれぬ事情で借金をしたのがもとで家族がばらばらになった野宿者に出会うこともあ る。長年にわたって蓄積された親族間の確執は他人にはわかりにくいこともあり、本人にとって親族に連絡がいくことすらためらわれる場合もある。そもそも、 成人になっている者を親族だからといつまでも扶養しなければならない義務を課せば、生活保護受給希望者とその親族が自立的に生きる権利を奪う。
 さらに、生活保護法改悪案の第29条では、過去の受給者とその扶養者の資産・収入状況の報告を銀行・職場の雇用主などに求める権限を認めている。生活保 護の受給者は、受給と引き換えにプライバシーである医療・親族・預貯金をつまびらかにしている。その情報をもとに職場にもプライバシーがあばかれる可能性 が、受給をやめてからずっとつきまとうこと


2013年6月23日(日)
 13:30  JR府中本町駅集合 → 徒歩で殺害現場へ
 14:00  殺害現場で献花と交流 (府中市是政3-55)
に反対する。
 生活保護法改悪案第60条では、生活保護受給者が、健康管理や生計の把握に努めることを義務化している。「生活困窮者自立支援法案」でも、自立相談支援 事業と称して家計相談に応じるなどとある。野宿者がアパートに入るまでネットカフェなどで宿泊している待機期間中、日々の生活費を数千円渡され、それで 買った分すべてのレシート提出を強制する福祉事務所もある。こうした生活の細部にわたる金銭管理は、通常の生活では考えられず、ノーマライゼーションに反 する。自立支援と称して生活の細部を管理しかねない第60条に反対する。


3、生活困窮者自立支援法について
 生活困窮者自立支援法第2条には、一定の住居を持たない生活困窮者に対して一定の期間内、宿泊場所と食事提供を行う事業を設置するとある。どのような施 設を想定しているのか不明だが、無料低額宿泊所とも考えられる。無料低額宿泊所は、食費や家賃徴収額に比べて著しく低い価値の食事と住環境である。例え ば、家賃は5万3000円なのに、6畳の一部屋を仕切った狭い空間に二人で住まわされ、鍵をかけることもできないので物を盗まれた仲間もいる。朝食前に仕 事に出かけるから朝食分の食費は支払いたくないと言っているのに、強制的に徴収されていた仲間もいた。さらに、無料低額施設には、成人が社会生活を営む上 では障害となる規則が多い。例えば、施設内では飲酒禁止、門限の20時を過ぎると施設の中に入れさせてもらえないなどである。通常の住まいでは、自宅で友 人を招いて酒を飲み、20時を過ぎて帰ることは普通に行われている。それを禁止される無料低額宿泊所は、住む人の幸福追求権を奪う。こうした施設を助長さ せるのであれば、宿泊場所の設置には反対する。
また、同条には、生活困窮者の家計と支出の節約について継続的に指導するとある。生活の細部にわたり
金銭管理をされることは、ノーマライゼーションに反する。