野宿生活者、福岡正二さんの虐殺から1年。

 昨年6月27日、東京都府中市内で野宿生活をしていた福岡正二さんが虐殺された。それから、1年。家もないほどに貧しく、自分を守る家がないゆえに殺されてしまった福岡さん。顔も知らぬ福岡さんを思い、野宿者襲撃を許さないという思いを深くしたい。
2009年6月28日(日)午後2〜4時、府中市のルミエール府中で開かれた 「“共に地域で生きる” 野宿生活者 福岡正二さん殺害事件から一年」(主催:「福岡正二さんを悼む会」実行委員会)の催しを紹介したい。



三多摩地域の仲間で、福岡正二さんを偲ぶ集会

共に地域で生きる「ホームレス問題」と人権(2009.6.27) 稲葉剛(NPO法人自立生活サポートセンター・もやい代表理事


厚労省の統計(2009.5.29)によると、昨年10月から今年6月まで216408人の非正規労働者が失職する見込み。
もやいでも相談が増えている。GW後、毎月150件ほどの相談があり、駆け込み寺の状況。数十円の所持金で何も食べていない人も多く、相談前におにぎりとみそ汁を飲んでもらう。

各支援団体の炊き出しも増えている。新宿、昨年10月から増え、今は600人。
会社名義の部屋に住んでいた人、強要されて自己都合退職になって失業保険給付までの日数も受給期間も減った人…。パチンコ屋勤めで、退職強要で上司に腹を殴られた人もいた。マスコミが派遣切りの報道をやめ、問題が終わったような雰囲気がある。しかし…。家族・友達の援助や貯金でなんとかしのいでいた。そういう人が大変になるのは、むしろ、これから。東京都、緊急一時シェルターにもすぐに入れない状況だ。

貧困の広がり。NHKの番組、ワーキングプアの番組などで世論が変わってきた。それまでは、貧困問題は日本にはない、と思われていた。でも、昔から貧困問題はあった。ホームレスの人は、90年代から増えてきた。ほとんど日雇い労働者だった。日雇いもネットカフェ難民、派遣切りの人、ダブっている。どれも労働が不安定でワーキングプア。日雇い、電話で派遣場所を言われて行く、明日の仕事も保証なし。仕事が細切れにされている。仕事と住まいは車輪の両輪、仕事が細切れだと毎月の家賃を払えず家を追い出される。ワーキングプアであるが故にハウジングプア。日雇い=ドヤ、派遣=ネットカフェ、同じ。貧困の質は変わらず、量が拡大したと言える。

なぜ、最近まで貧困問題を忘れていたのか。日雇いは、雇用の調整弁だった。派遣も調整弁といえるだろう。年度末は、公共事業の予算消化の工事が増えるから炊き出しが減る。予算が動かない年度初めやGWは工事が少ないから、仕事に就けない人が増えて炊き出しも増える。まさに、雇用の調整弁だ。
私の活動のきっかけは、90年初めの東京都による新宿駅の段ボールハウスからの排除だった。その1年前には、原宿・代々木公園でもイラン人排除があった。バブルで人手不足を補うためにイラン人の不法滞在が黙認されていたが、バブル後に排除された。イラン人、野宿が同じころに排除されたのは、雇用の調整弁といえるからではないか。
その後、日系ブラジル人を労働者として日本に入れた。愛知県の豊田の富ヶ尾団地で粉ミルクが足りないと、カンパ要請がきている。日系ブラジル人の失業率は6〜7割、困窮状態に陥っている。言葉の問題もあり、再就職も難しい。県営住宅も利用できない。
ビルマ人の難民も、ホームレス状態になっている。ビルマ人は生活保護すら申請できないため、アムネスティなどの呼びかけで支援活動が始まっている。
障碍者雇用も女性も、景気の調整弁といえるだろう。貧困問題に取り組む女性たちは、「女性にとっては以前から貧困問題があった。それなのに最近になって貧困問題が取り上げられるようになったのは、男性が貧困になったから」と言っている。今年、生活保護母子加算が削減された。国会では、野党が復活を求めて紛糾している。
マイノリティ、社会の周辺部に置かれ、問題として考えられてこなかった。
日本政府が日系ブラジル人に対してやっとはじめた支援は、帰国費用を補助するというもの。その支援を利用するとそのときのビザでは再入国できない条件になっている。そんなひどい支援の問題も、貧困を直視してこなかったツケではないか。

ドキュメンタリー映画「沈黙を破る」で、イスラエルによるパレスチナへの残虐行為を、イスラエル兵が告発するシーンがある。パレスチナの女の子を銃で殺すイスラエル兵…。イスラエル兵は「占領を隠すことで社会の何かが死滅する」と告発している。貧困問題もそうだ。貧困問題を放置することで、社会の繋がりとかシンパシーとか、人々の内面が死んでいく。だから、社会の問題として考えることが重要だ。

以前は、浮浪者という言葉を使っていた。アメリカのホームレスという言葉は、適切な家を持たない人を指す。日本では、河原あたりに住む人など、限定的に使われている。
厚労省は、現在、野宿者が1万5759人と言っている。昨年よりわずかながら減っているので、驚いている。昼間では実数を数えておらず、実際は2〜3万人にいるのではないか。
ネットカフェ難民が注目されてから、厚労省が調査した。住宅喪失不安定就労者とは、週3〜4日泊まっている人と定義されている。調査結果は、5400人。でも、週1日ネットカフェに泊まっている人はカウントされない。大阪では、個室ビデオとネットカフェが競争している。個室ビデオ店にいる人は統計に入っていない。住む所がないと仕事も探せない。ワーキングプアであるが故にハウジングプア。ハウジングプアであるが故にワーキングプアだ。

住まいそのものが不安定になっている。家賃支払いが1〜2カ月遅れても、借地借家法があるから、追い出せない。でも、最近、居住権を侵害する契約、ゼロゼロ物件(スマイルサービスなど)が横行している。初期費用が安い、が謳い文句。しかし、一般の賃貸契約ではなく、鍵を貸しているという脱法的な契約だ。ちょっと支払いが遅れると勝手に荷物撤去したり鍵を変えたりする。三多摩では、立川のシンエイエステートなどがある。
家賃保証会社の仕事は、取り立てになっている。クレサラ会社が、グレーゾーンの金利が撤廃されて本来の金利になってから儲けが減り、連帯保証会社へと流れている。家賃を滞納すると立て替え払いをして、高い滞納料金を上乗せして取り立てる会社を運営している。例えば、フォーシーズなどがある。1〜2カ月家賃支払いを遅れただけで追い出す。それがホームレス化を促進している。法的規制をかけるように弁護士などが働きかけている。不動産会社からの反撃が始まっている。厚労省、何ヶ月も家賃を納めないからだと言っている。国土交通省に、規制するよう、こちら側の圧力を強めたい。

福祉は社会的弱者のためにあると考えられてきた。労働市場からはじかれる人を対象にしている、と。しかし、実際には企業の福祉・福利厚生があった。それが、バブル崩壊で削られた。90年代以降、リストラの対象、人件費の削減、非正規化がすすんだ。フルタイムでも食えないワーキングプア。企業の福利厚生も減り、貧困拡大化してきそうな状況だ。企業も当てにならない。
だからこそ、公的なセーフティーネットを増やすべきではないか。しかし、小泉改革意向、セーフティーネット削減へと動いている。生活保護の水準も下げる方向にある。

深刻なのは、構造の変化を私たちが認識していないこと。変化に気づかず、未だに、自己責任論をいう。一所懸命に仕事すれば食いぶちくらいどうにかなる、仕事は探せばある、という以前の意識を持ったままの人が多い。世間では無責任論を言い、当事者もそう思ってしまっている。社会を責めずに自分を責めるから、なかなか相談へと結びつかない。せっぱ詰まるまで相談しない。

経済的貧困と共に、繋がりの貧困。社会的な繋がりのOECDの調査によると、社会的繋がりが最も貧困なのは日本だ。社会的繋がりが少なく、企業が媒介しない関係が少ない。(参照 http://www2.ttcn.ne.jp/~honkawa/9502.html
そんな中で、自殺が増えている。1993年以降、自殺者3万人を超えている。この年は、野宿生活者が増えた年でもある。そして1993年以降、景気がよくなっても自殺者は減ってない。景気が悪化した今年はどうなるのか…??
自殺を減らすためにも、貧困問題を変えていくことが大事だ。生活保護受給で生活保護を受給している人(補足率)は、わずか2割。生活保護の経済状態の人5人に4人が、生活保護を受給していない。
自殺を減らすには、人々を孤立に追い込む風潮を変えることが必要だろう。
たくさんの関係性があればあるほどよい。野宿状態の人、人間関係がゼロになった人が多い。人間関係をつくり、人と話す場をつくること。もやい、おしゃべりする場で仲間作り。しかし、もやい以外にもあった方がいい。できるだけたくさんの関係があることが豊かといえる。

江戸川区の野宿者襲撃では、加害者が野宿者にゲームのモンスターの名前を付けていた。「自己責任できないとダメなヤツ」という野宿者への社会の風潮を、子どもも感じている。
最近、子どもと野宿者の状況が近くなってきている。高校生の親がいなくなる、教師が高校生の生活保護申請。私立に行っていたが学費払えずに公立へ。貧困な子どもが増えている。子どもたちにもメッセージを発する必要があるだろう。

■質問・感想■
 ○住まいが保証されているとは?
  → 外国の記者に、派遣切りはわかるが、住まいまでなくなるのはわからないと言われる。ヨーロッパは、社会住宅が発達している。日本では、高齢とか入居資格が厳しい。入居資格があっても、宝くじ的な抽選。石原都政では、公営住宅が増えてない。


■各団体から■
三多摩野宿者人権ネットワーク(立川)  居宅保護。ビッグイシュー
○たまごの会(東村山) 月1回の訪問。鈴木さんの死から…。
○夜まわり三鷹  数人の仲間と一緒に参加しました! とにかく、身近な公園を訪問して、関係を作ろう。自分の得意なことを活かして活動しよう。
三多摩自由労組
○府中緊急派遣村